試験目的
シアコネクタのせん断試験の結果より、施工性・汎用性が高いシアコネクタのSC(スクリュービス)タイプと、剛性が高いNL(ノッチ+ラグスクリュー)タイプを選択し、DLT-CC、T-CCの実大の曲げ試験を行い、曲げ性能を確認しました。
試験概要
DLT-CCの設計
DLT-CCを事務所の床構造に用いるものとして、試験体を検討しました。
a)設計条件
積載荷重2,900N/㎡(建築基準法施工令第85条事務室の積載荷重)
仕上げ荷重400N/㎡
支持条件ピン、ローラー支持
スパン3,600mm
b)断面仕様
木部材断面DLT-CC ; 266mm(38mm×7層)×140mm
T-CC ; 270mm×140mmスラブ厚70mm(60mm+仕上げ10mm)
ひび割れ防止筋メッシュ筋φ6#100
c)荷重計算
自重70×23+140×5=2,310N/㎡
積載荷重負担幅266mm(DLT-CC)
応力用荷重W1 =(2,780+2,900)×0.266 = 1,511N/m(等分布荷重)
3.6m×1.52kN/m = 5.472 kNd)解析モデル
解析モデルの概略を図6に示します。解析モデルではコンクリート断面の材芯を部材芯とした上弦材、木断面の材芯を部材芯とした下弦材、シアコネクタのせん断耐力をブレース置換した斜材で構成する平行弦トラスとしました。DLT-CC試験体ではラミナ毎にモデル化しました。
なお、コンクリートのひび割れ防止のためメッシュ筋φ6#100を入れましたが、メッシュ筋は引張を負担しないものとし、重ね継ぎ手せずに隙間を設け配置しています。e)解析結果
表10に⻑期荷重(応力用荷重)に対する解析結果を下表に示します。応力解析には汎用構造解析ソフト「midas iGen」を使用しました。
NLタイプ試験体では、梁端部からノッチまでの木部のせん断耐力がノッチ部分のコンクリートのせん断耐力を上回るよう設計しました。
試験体の仕様
試験体の構成一覧を表11に、試験体図を図7〜図10に示します。コンクリートと木部材との界面には透湿防水シートをタッカー留めました。シアコネクタの取付方法は、シアコネクタのせん断試験と同様としました。
木材の仕様
1)スギDLT
DLTラミナには群馬県産スギJAS枠組壁工法構造用製材 甲種2級を使用しました。
縦振動法によるヤング係数が6.18〜10.32kN/mm2、含水率Mc16%以下で欠点を含まない材を木ダボ接合しました。
DLT積層後の縦振動法によるヤング係数の平均値は、8.30kN/mm2でした。2)スギ集成材
スギ集成材は同一等級構成集成材 強度等級 E75-F270を平使いで使用しました。
⻑さ4,000mmで測定した縦振動法によるヤング係数の平均値は、8.58kN/mm2でした。
コンクリートスラブの仕様
使用コンクリート:呼び強度24、スランプ18cm、粗骨材の最大寸法20mmを使用しました。
実験前後の材料特性を表12に示します。
試験方法
加力方法
試験内容木-コンクリート合成材の実大曲げ試験
試験実施日2023年11月8日〜2023年11月13日
試験場所(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所
実大木材強度試験機:前川試験機(株) 最大容量 1000kN
加力位置、測定位置を図11に示します。支点間距離は3,600mm。載荷は3等分点2点荷重としました。加力速度は2mm/minとし、最大荷重後、荷重が最大荷重を越えないと判断された時点まで載荷を継続しました。
試験結果
表13に全試験体の力学的特性値を、図12〜図15に各試験体のP-δ曲線を示します。
P−δ曲線
試験結果の考察
試験結果について
・破壊荷重は⻑期荷重に対して7倍以上の余裕があることから,DLT-CCの設計上に問題はないと考えます。またNLタイプ試験体ではノッチ部のコンクリートでせん断破壊であり設計通りでした。
・SCタイプ試験体では、NLタイプ試験体に比べ、約1.8倍程度大きく変形し、木部で破壊しています。
・試験体D-SC-Sでは、下面に節などの欠点を有するラミナから破壊しましたが、全体破壊まで至らず、最大荷重の更新を繰り返しています。
・NLタイプ試験体では、SCタイプ試験体に比べ、最大変位が約0.56倍、0.58倍と少ない。試験中の目視観察においても、コンクリート部と木部との層間のずれも少ない。初期剛性の平均値も1.72kN/mm(D-NL-S)、1.77kN/mm(G-NL-S)と近い値を示しています。
試験結果と非合成梁、完全合成梁との曲げ剛性を比較すると下表の通りです。
曲げ試験結果についての検証
試験結果を踏まえ、解析モデルに3等分点2点荷重としてP=70kNを作用させ、DLT、シアコネクタの応力を確認し試験結果を検証しました。DLT、シアコネクタの応力が耐力を上回る場合、荷重低減して破壊荷重の最小値を求めました。
DLT試験体の初期剛性について、NLタイプ試験体では解析値1.45kN/mm、1.46kN/mmに対し、試験値は1.71kN/mm、1.77kN/mmで約1.2倍でした。また、SCタイプ試験体では解析値0.90kN/mm、0.92kN/mmに対し、試験値は1.07kN/mm、1.27kN/mmで約1.2〜1.4倍でした。
解析結果と試験結果との比較より、トラスモデルによる解析では、シアコネクタの違いにより解析結果と試験結果に相違がありました。スクリュービスのような非線形性のせん断性能を有するシアコネクタでは試験値に近い解析結果が得られましたが、ノッチタイプでは荷重の増加による剛性低下を考慮することで、より精度よく破壊荷重の推定ができると推測されます。